ジキル&ハイド
    作詞・脚本:レスリー・ブリッカス   作曲:フランク・ワイルドホーン     演出:山田和也   上演台本/詩:高平哲郎    音楽監督:甲斐正人     装置:大田創  照明:高見和義  衣裳:小峰リリー  振付:上島雪夫     主催/企画製作:東宝、ホリプロ、フジテレビジョン          ヘンリー・ジキル/エドワード・ハイド:鹿賀丈史       ルーシー・ハリス:マルシア     エマ・カルー:茂森あゆみ  ガブリエル・ジョン・アターソン:段田安則 ダンヴァース・カルー卿:浜畑賢吉   サイモン・ストライド:石川 禅  ベイジングストーク大司教:大須賀ひでき   サベージ伯爵:林 アキラ         プール:丸山博一   ビーコンズフィールド侯爵夫人:荒井洸子  グロソップ将軍:阿部 裕   アーチボルド・プループス卿:小関明久   ビセット:松村曜生   ネリー:北村岳子     女将:有希九美    新聞売り:阿部義嗣     岩田 元、岡田 誠、飯田容子、園山晴子、鳥居ひとみ、古都やすこ      公演期間:2001年11月5日(月)〜2001年11月30日(金)  日生劇場      料金:A席12,000円 B席6,000円 C席3,000円(税込)      観劇日:2001年11月6日 13:00〜 2FA列29番    ついに楽しみにしていた「ジキル&ハイド」日本版を観劇。ブロードウェイ版3回、  99年ナショナルツアー版をフィラルデフィアで観ております。ブロードウェイ版と  ナショナルツアー版で結構違っていた話は以前にも書きましたが、やはり私が  日本版を観る視点もいわゆる「比較」になってしまうと思いますが、感想として  書き留めておきます。  やはり、最大の違いは「髪の毛」でしょう。初めて観た時に「影の主役」という  言葉で表しましたが、これがないと1人2役が生きてこない。まぁ、例の対決の  シーンではチラシにイメージされている通り、赤と青の照明でなんとか工夫されて  いましたけど、ちょっと頭を振ってバサバサにした程度では中途半端な印象。  そして1幕の山場、ジキルの熱唱「This is the moment」。編曲やたら早過ぎ。  なんか行進曲のよう。あっという間に過ぎてしまった。鹿賀さん、かなり健闘  していますが、やはりジキルのこの役は一番ここが評価どころですから。  ところで、その間から後にかけて、薬の準備があるわけだが、なんと日本では  「飲み薬」なんですね。アメリカでは注射で、しかも演技が細かい。腕をまくり  ゴムバンドで止めて消毒して、薬を注射器に入れてといった動作をゆっくり進め  ることによって決意と迷い、緊張感や恐怖感がじわじわと伝わってきたと思い  ます。そんなこんなで日本版はあっさりしすぎているのかも。  ジキルが薬を飲んだ後、「しょっぱい」とか「塩味」とか記録を書くところで、  観客から笑いが起きていたが、いくら鹿賀さんが舌が肥えている(?)からと  言って味の評価で笑わせるのではなく、ピリッとした緊張感が欲しい。  薬が螢光塗料のように光っていたのはナショナルツアー版と同じでこれは良い。  さらに小道具系で言うと最後にジョンがジキルを殺すのは今回はピストルだった  がアメリカ版は刀だったと思う。時代的にはどちらが適当か不明であるが、  日本版は結局ジョンの意志で撃った形になってしまっていたが、刃物版では  ジキルの方から迷っているジョンの持っている刀に刺されに行くという自殺  っぽい最後だったので、あっちの方が悲劇さがストレートに出ていて良かった。    あと、この作品の見どころと言えば、2幕からの通称「必殺仕事人」のシーン  でしょうか。総じて見てアメリカ版に比べて残忍さが足りない。これも演技の  細かさが不足なのかもしれないが、例えば一人目はいきなり炎が立ちのぼるの  ではなく、ビンのアルコールかなんかをたんまり撒いてから火をつけるという  もので、やはりじわじわと恐怖感が襲ってくるといった感覚がありました。  まぁ、実験室が火事になるところも含めて、日本版では「炎」には期待はして  ませんでしたけど。しかし、一人目がステッキで壁にゴリゴリ持ち上げられる  というのは今まで見たことない残忍さがありました。あとは、アクションより  も言葉(殺し文句)が先行してしまった感じで残念。最後に至っては言葉だけ  で殺してしまったし。  ちなみにこのシーンの合間に出てくる民衆のシーンはブロードウェイ版に近い。  ナショナルツアー版はNewsBoy(新聞売り)がいません。「Murder、Murder!」  (日本では「事件、事件」)と歌ったのは貧しい一般市民ではなく、いい格好  をした上流階級の人々です。被害者が偉い人たちばかりなので、次は自分かも  と騒いでいる貴族たちの様子といった解釈なのが個人的には好きでした。  装置はやはり全く違う。ブロードウェイ版とナショナルツアー版は別の人が  やっていたので、もちろんあのブロードウェイ版特有の赤と黒のジャングル  ジムっぽいのはナショナルツアー版ではなかったのであるが、どちらかと  いうとあのジャングルジムは不要と思っていたので、今回もなくて良かった  と思う。でも、ちょっとイメージが違うようなセット多数。まず、実験室。  上からビーカーやら試験管等の実験器具の棚が降りてくると思ったら期待  はずれ。テーブルがかろうじて実験室っぽい感じがしたが、その他の物は  何の部屋? と戸惑うほど理解できない物体ばかり。特に後ろにある巨大歯車  みたいなのは何なんだろう。。。さらに声を大にして言いたいのは、実験室  セットの左上部に鏡があり、2階席前方の席だとそこに指揮者モニターが  反射しているのだ。周りが暗いのに何故かそこだけ明るくて指揮者が踊って  いる、というのは雰囲気ぶち壊し。だれか2階席から歌うはずもなし、何で  あんなところに鏡がある必要があるのであろうか?  あと、ルーシーの勤め先「どん底(アメリカではThe Red Rat)」のセットが  イメージより豪華な建物。入る前の外で貧民が汚く貧しい場所と歌ったのが、  生きてないなー。そもそも2階建てっていうのがイメージ合わない。  最後の結婚シーンが教会ではなく、ダンヴァース邸というのは、教会セット  を作る手間を省いたのだろうか。あと、このシーンが教会であるアメリカ版  はシーン前にボーイソプラノ(影コーラス)が歌う賛美歌(?)みたいなの  があり、これをすでに死んで出番のないルーシー役者が歌っているというの  を密かな楽しみにしていたのでちょっと寂しい。  日本語詞は多分訳す(というか音に乗せる)のが大変だと思っていたので、  しょうがないと思うが、ジキルがルーシーに名刺を渡す時に言う、  「You need a Friend」はカットしないで欲しかった。ルーシーが何故、  ジキルを意識し出したのかがよくわかるセリフだし、ルーシー自身が後で  リプライズしている言葉だしね。「事件、事件」など連呼する単語も  多くて気になりますが、どうも人名以外は完全日本語化しようとした感も  あるので、今の時代、ちょっとくらい英単語をそのまま使ってもいいと  思いました。  是非、再演、再々演を続けて欲しい。  何か大急ぎで作ったという感じの日本版なのでもっと円熟していけばきっと  浸透すると思う。原作が有名なので結構一般ウケも良いはずだし。  ちなみに私は次のワイルドボーン作品「スカーレット・ピンパーネル」の  日本上陸も切に願います。こちらもバージョンがたくさんあるんだよな。  あとパンフが1500円であの内容は高い。いつも大サイズでキャスト紹介  もちゃんとしている東宝、Bigで凝ったパンフ作ったフジテレビ、十何年  もピーターパンやってるホリプロとせっかくミュージカルビジネスに精通  した3社がタッグを組んだんだからもう少しなんとかして欲しい。
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