宝塚歌劇団宙組公演
三井住友VISAミュージカル
ファントム
東京宝塚劇場

 脚本:アーサー・コピット 作詞・作曲:モーリー・イェストン 原作:ガストン・ルルー
 潤色・演出:中村一徳   翻訳:青鹿宏二   振付:大谷盛雄、麻咲梨乃、KAZUMI-BOY
 衣装:任田幾英      照明:勝柴次朗   装置:関谷敏昭
 音楽監督:西村耕次    歌唱指導:岡崎亮子 演奏:宝塚歌劇オーケストラ 
    特別協賛:VISAジャパングループ       制作・著作:宝塚歌劇団 

 ファントム:和央 ようか        クリスティーヌ・ダーエ:花總 まり 
 ジェラルド・キャリエール:樹里咲穂   フィリップ・ドゥ・シャンドン伯爵:安蘭 けい 
 アラン・ショレ:鈴鹿 照        カルロッタ:出雲 綾 
 マダム・ドリーヌ:貴柳 みどり     ジャン・クロード:美郷 真也 
 ルドゥ警部:寿 つかさ         ガブリエル:鈴奈 沙也 
 ヴァレリウス:毬穂 えりな       メグ・ドリーヌ:花影 アリス 
 モンシャルマン:夢 大輝        ジョセフ・ブケー:貴羽 右京
 若かりし頃のキャリエール:初嶺 麿代  幼いエリック:和音 美桜

           公演期間:2004年7月17日(土)〜8月29日(日) 
    料金: 座席料金: SS席10000円、S席8000円、A席5000円、B席3500円 (税込)

    観劇日:2004年8月8日 15:30〜 2F16列64番

 まさかここでて観られると思わなかった、コピット版のファントム。アメリカの地方では今でも
 時々、細々とやっているらしいが、日本で、しかも宝塚がやるとはねぇ。オリジナルからどれ
 ほど変化しているのか詳しくはわからないが、見る前からかなりの期待。

 まず冒頭がいい。オバーチュアが独立している(オーバーチュアの後に開幕のアナウンス)のは
 なんだかよくわからないが、その後いきなりファントムが歌い出すメインナンバー(?)でまず
 圧倒。テノール声だったらさらに超いいだろうなーと思うが、開始早々トップスターが登場して
 観客を圧倒するのは宝塚ならではという意味も大きいと思う。この冒頭の曲「僕の叫びを聞いて
 くれ」は宝塚版のためのオリジナルとも聞いたが、さすが魚に水を与えるようなナンバー&演出
 である。その直後の同曲のアップテンポアレンジでのダンスシーンも良い。オリジナルでは
 ダンスシーンがないらしいが、さすが宝塚。魅せどころを知っている。この時ファントムが従え
 ているファントムダンサーもオリジナルにいないのか気になるが、このあたりはエリザベートと
 ダブる。

 そしてもう一人のトップスターのヒロイン登場の場面も良い。それまでの暗い(荘厳な?)
 雰囲気で進んでいた舞台が180度転換、パッとシーンが明るくなり、そして歌い出す軽快な
 ワルツのナンバーがいい流れである。この曲「メロディメロディ」もメインナンバーっぽく扱わ
 れていて、スターの登場シーン+別の雰囲気+それぞれのメインナンバーという構図がうまい
 作りであると思う。

 やはり宝塚ということでこの主役コンビ中心で描かれているのだろうが、ビジュアル的にもいい
 主役コンビで、かなり合っている。長い髪もいい感じで美しいファントム。クリスティーヌも
 美女の境地だ。花總まりは以前「エリザベート」で見た時よりかなり痩せ過ぎているようにも
 思えたが、名実ともに最高のヒロインである。それにしてもやたら在籍長いなぁ。
 宝塚でやるからには、ということで怪人がオジさん系じゃない若者でなければならないのはいい
 が、後半で怪人の父であると発覚するキャリエールはどう見ても若過ぎる配役で宝塚ならではの
 ギャップ(違和感)が強く生じている。同じ宙組でやったエリザベートではフランツ・ヨーゼフ
 が和央ようか、ルドルフが樹里咲穂だったが、父子まったく逆になっているというのもすごい
 ことである。

 あとの作品としての感想はやはり、どうしてもALW版との比較になってしまう。こちらの方が
 ガストン・ルルーの原作に近いらしいが淡々としているのがマイナスなのだろう。主役である
 怪人とクリスティーヌの関係もはっきりしない感じ。怪人が傷を気にしている普通の悩める人間
 なところがウリなのだろうが、テーマの目の付けどころはいいものの、傷(生い立ち)の悩みと
 恋の悩みと2つを描くにはあっちこっちしすぎで二兎を追い過ぎの感もある。
 ALW版のラウルにあたるところのフィリップは情けないキャラ一辺倒。こちらに三角関係と
 いう構図はない。その代わりALW版でいうところのムッシュ・ルフェーブル(イコールか?)、
 キャリエールが大きく扱われている。マダム・ジリーもいるがこちらは目立たず。というか衣装
 が一緒なのは逆にすごい。メグ・ジリーなのかどうかわからないがマダム・ジリーの娘もいる。
 こちらも目立たないが。やはり殺されてしまうジョセフ・ブケーはこちらではカルロッタの衣装
 係というスマートなイメージになっている。
 シーンでの大きな違いは、回想シーンで怪人の生い立ちを見せるのが大きい。より人間的に怪人
 を描こうとすると必要なシーンなのだろう。以外にも同じ部分は、赤い死の扮装をして怪人が
 現れる場面があること。
 歌詞については、「音楽の天使」などとALW版(四季版)と同じ単語も出で来るが、
 「オペラ座のファントム」とわざわざ変えて呼んでいるっぽい言葉も見られた。このあたりが
 訳詞の妙である。
 曲はさすがロンドン生まれと違い、アメリカン調なメロディもある。フィリップが歌っている
 ナンバーがそれで、その部分だけパリとかヨーロッパを抜けて古き良きアメリカンなミュージ
 カルになってしまうところがちょっと困りもの。しかも2曲ある。

 あと音楽でいうとせっかく2人を前面に出しているはずなのに、まともなデュエット曲がない。
 面と向かい合わない(別空間にいるらしい)いい感じのデュエット曲はあるのだが、ちょっと
 寂しいのである。

 宝塚につきもののフィナーレ、なぜかスペインチックなテーマで繰り広げられている。やはり
 ファントム系のイメージを維持した展開が良かった。

 今年はケン・ヒル版も再来日するらしいし、映画の公開も待ち遠しい。四季版の東京公演も
 予定されていて、ちょっとした「オペラ座の怪人」ブーム再燃か?
 そうなると個人的に期待してしまうのは「エリザベート」の例もあるように「宝塚の演目」→
 「東宝ミュージカルの演目」という展開。是非この「ファントム」も東宝版でやって欲しい。
 怪人はやっぱ山口祐一郎か。そしてキャリエールは市村正親。他にも鈴木綜馬、今井清隆、
 沢木順など元四季の怪人総出演でどうだ!
 

top