劇団ふるさときゃらばん公演
みちぶしん
日本青年館
      作・演出:石塚 克彦        演出助手:天城 美枝
      音楽:寺本 健雄          振付:小澤 薫世/劇団ダンススタッフ
      チーフプロデューサー:ひらつか順子 プロデューサー:三樹 ひかる
      制作:大内 義信/劇団制作部

        観劇日: 2005年3月2日(水)18:00〜  1階J列10番

 劇団ふるさときゃらばんといえばその名の通り、日本の地域密着型のミュージカル集団という
 イメージがある。また、サラリーマンものの演目も有名で日本独特の社会事情をミュージカル化
 しているという点でかなり興味があった。といいつつもなかなか見る機会がなかったが、今回
 はじめて劇団ふるさときゃらばんのミュージカルを見てみた。

 演目は「みちぶしん」。全く馴染みのない言葉だったので行く前にちょっと予習をしていった。
 昔はかなり頻繁に使われていた言葉だが、近所付き合いも薄れたような今の日本になって全く
 使われなくなった言葉なのだろう。確かに「隣は何をする人ぞ」時代になったとここ十数年は
 言われている。電話とかメールとか相手が見えないコミュニケーション手段は発達したが、
 相手に直面する近所付き合いのようなコミュニケーションは失われつつあるのだ。ミュージカル
 のキャッチコピー(?)が「新しい対話を生み出すミュージカル」となっているが、この劇団
 らしいテーマである。

 物語は縄文時代の日本から現代までを4部構成で描いている。だが、歌やダンスを盛り込み、
 ミュージカルっぽいなぁと思ったのは1部だけだった。2部以降は短かったせいか、演劇+α
 みたいな感じになっていた。さすがに数千年の歴史を2、3時間で収めるには大変なのだろう。
 1部の後半の旅の行程は語り部を脇に配して人形芝居的な感じになっていて、ダイナミックさ
 には欠けたが、コメディ調で大衆演劇という感じがして新鮮だった。2部のキツネの舞を中心
 としたストーリーも日本の伝統劇能(神楽舞)の手法を使っていて連獅子のような長い髪を
 振り回すキツネの舞踊を中心とした展開に日本昔話のような和製ファンタジーを感じる。また、
 このストーリーも結構悲しい内容で日本のおとぎ話っぽい。3部、4部は現代に近くなった
 ためか、多分、この劇団お得意のサラリーマンものはこんな感じなのだろう、みたいな感じを
 彷彿させるものだった。各部のつなぎを数人のピエロでつないでいるため無理のない構成に
 なっており、いい手法である。
 時代を越えて4部構成にしてるから全体を通しての主役がいないものの、各部における主役っ
 ぽい人がいる。しかし、曲はほとんどが合唱曲で進行し、主役が歌うソロフレーズはあっても、
 ソロナンバーはないのは残念。主役以外の語りの人が脇でセリフの途中で歌うというのはある
 のだが。みんなで作っているという感じを出すためだろうか。それともソロを歌える俳優が
 いないのか。俳優がマイクなしで歌っているようなのでそれも関係しているのかもしれない。
 コーラスは女性は大きく聞こえるが、男性コーラスは弱い気がする。サラリーマンを描く作品
 などは男社会がテーマなので男声が弱いと困るのにこんなものなのだろうか。3部においても
 トンネルを工事する作業者の男性合唱があるが、もっとパワーが欲しいと思った。

 音楽自体についてはさしさわりのない印象。歌詞の方にメッセージ性を込めようとしている
 のがよくわかる。生演奏で3人位の演奏者が舞台両脇で電子楽器のプログラム音に合わせて
 演奏をしているが、出演者の数に対すると、やはり音の厚みが弱いなぁと思う。ソロ曲がなく
 合唱ばかりなのがやはり伴奏の薄さを目立たせてしまう。
 セットは意外と大がかりで、全国各地で公演するにしては妥協ない感じがしていて感心した。
 衣装については特にないが、頭はみんなカツラを使わず自分の髪を露出してるようで、茶髪や
 いかにも美容院でカットしてもらいました的なヘアスタイルの人もいてさすがに縄文人には
 違うだろう、という感じもする。 

 ところでこの作品の舞台になっているところは、劇中に地名が出てくるように塩尻とか松本平、
 安房峠など、実は私の故郷のあたりなのである。結構、自分の故郷がミュージカルの題材に
 なるというのはうれしいものである。ただ、縄文時代ならまだしも、4部とかに出てくる現代
 の地元民がしゃべっている言葉が気に入らない。適当にどこかの訛りを使ったセリフや口調で
 地方の田舎っぽさを出しているようであるが全くもって松本弁(?)ではないのである。
 非常に残念なことである。

 キャスト表が存在せず、俳優名が明らかになっていないのも残念。劇団としてはテーマ重視で
 俳優を前面に出したくないのかもしれないが、観客にしても俳優にしてもマイナスではないか。
 終演後、俳優数名がロビーで客に礼を言って送り出しをしていたが、これは矛盾した行為で、
 観客と俳優のふれあいを大事にするなら、せめてキャスト表ぐらい作るべきである。スタッフ
 についてはチラシやホームページで大々的にアピールし、開幕前に場内アナウンスまでして
 紹介してるのだから、そういうことなら俳優じゃなくスタッフが送り出しすべきだろう。


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