ルドルフ 〜ザ・ラスト・キス
帝国劇場
       原作:フレデリック・モートン著「A Nervous Splendor」
      原案:フランク・ワイルドホーン&スティーブ・キューデン
    脚本・歌詞:ジャック・マーフィ    追加歌詞:ナン・ナイトン
       脚色:フランク・ワイルドホーン&フィービー・ホワン 
     音楽:フランク・ワイルドホーン     演出:宮本 亜門
      翻訳:小嶋 麻倫子 訳詞:竜 真知子 音楽監督:八幡 茂
       振付:上島 雪夫   歌唱指導:山口 正義、小林 仁
      装置:松井 るみ  照明:高見 和義  音響:山本 浩一  
    衣裳:有村 淳 ヘアメイク:坂井 一夫(スタジオAD)、川端恵理子  
指揮:塩田 明弘 オーケストラ:東宝ミュージック(株)、(株)ダットミュージック
        プロダクション・コーディネーター:小熊 節子
     プロデューサー:岡本 義次、吉田 訓和     製作:東宝

          オーストリア皇太子 ルドルフ:井上 芳雄
         男爵令嬢 マリー・ヴェッツェラ:笹本 玲奈
       ルドルフの妻・大公妃 ステファニー:知念 里奈
            マリーの友人 ラリッシュ:香寿たつき
      オーストリア皇帝 フランツ・ヨーゼフ:壤 晴彦
          人形師 ヨハン・ファイファー:浦井 健治
         ウィーン日報の記者 ツェップス:畠中 洋 
         プロイセン皇太子 ウィルヘルム:岸 祐二 
             英国皇太子 エドワード:新納 慎也 
       ルドルフの御者 ブラットフィッシュ:三谷 六九 
           オーストリア首相 ターフェ:岡 幸二郎 

青山航士、乾あきお、小野田龍之介、小原和彦、笠嶋俊秀、後藤晋彦、杉山有大、砂川直人、
谷口浩久、中井智彦、中山昇、原慎一郎、ひのあらた、松原剛志、横沢健司、横田大明、
飯野めぐみ、家塚敦子、岩崎亜希子、樺島麻美、栗山絵美、黒川鈴子、後藤藍、史桜、
谷合香子、中山旦子、森実友紀、やまぐちあきこ

           公演期間:2008年5月6日(火)〜6月1日(日) 
        料金:S席12,500円 A席8,000円 B席4,000円(税込)

    観劇日:2008年5月22日(木) 13時30分開演 1階V列39番

「オーストリア皇太子・ルドルフ」。「エリザベート」では登場して十数分後にすぐ死んで
しまったが、その人物を主役として1つの作品としてどう広げるのだろうか。オリジナルの
製作陣はまったく違うが東宝的にはやはり「エリザベート」のスピンオフ的な狙いがある?
ほとんど「エリザベート」を観た人が観るもんだと想定してるからいいのかもしれないが、
いきなりこの作品を観るにはやはり歴史的な予習が必要な感じがする。より歴史的な事実に
迫っている内容なので、死神のトートや死人のルキーニなど幻想的、フィクション的な部分
を中心としていて歴史など知らなくても楽しめた「エリザベート」とはちょっと違う。
主役の子供時代から死ぬまでを描き長い期間を描いていた「エリザベート」に比べ、こちら
は登場時から皇太子で、結婚もしているし父とも確執があるという、描く期間がものすごく
短いというのも余計に歴史的社会的背景がストーリーに絡んでいるのだ。

キャストは「レベッカ」と平行公演ということで人のやりくりは大変だろうけど、ベテラン
を配した「レベッカ」に対し、こちらは若手でまとめた感じ。元四季や元宝塚が多い東宝の
ミュージカル作品の中では若手の生え抜きスターを育てようとする意思が感じられる。
落ち着いたキャストがおらず、みんな直球勝負みたいな若いエネルギーを爆発させているの
が新鮮だ。このキャスト中ではすでにベテランの域の岡ターフェが役的には「落ち着いた」
役割なはずなのだが、まだ充分若い歌い方とふるまいでいい意味で期待を裏切っており良い。
岡ターフェ、知念ステファニーは1幕に歌がなく、なんのためのキャストかな、と思ったが
2幕冒頭でそれぞれのパワフルなソロナンバーがあり歌唱力を発揮。聴かせるねぇー。
井上ルドルフは「エリザベート」のルドルフよりもさすがに今回は主役なので出番は多い。
ただ運命に翻弄される子供としての皇子から、同じルドルフでも今回は成長したルドルフに
なっているのに注目。ちゃんと妻もいるし大人の皇子になった。妻帯者はモーツアルトの時
もそうだったが、あの時は後半よりも前半の天衣無縫な若者ぶりが似合っていたのでやはり
いい成長してるなぁ。そろそろモーツアルトももう一度見てみたい。後半もしっくりする姿
が見れるかも。「エリザベート」のルドルフはもうできないよね。
笹本マリーはこちらも大人っぽくなったなー。痩せたみたいで娘っぽさが抜けた感じ。年齢
的にはまだピーターパンも復活できると思っていたがもう無理だろうな。
この2人のコンビネーションは文句なし。ゴールデンカップルだね。まぎれもないプリンス
&プリンセスだ。ちなみにチラシの2人が寝ている(死んでいる?)写真もいいよなー。
壌フランツは一番年上なのだが、このキャストの中ではだいぶ若返って見える。舞台中央の
暗い中でスポット浴びて声を張り上げて歌うナンバーなどハツラツとしててとても良い。
しかしフランツは数少ない「エリザベート」との共通役なので井上ルドルフに合わせて鈴木
綜馬あたりにやってもらったらもっと良かったなぁ。
狂言回しの人形師ヨハンはおいしい役。でも顔が白塗りでは役者としてはソンな感じ。

宮本亜門の演出はいい感じ。ブロードウェイの「Pacific Overtures」や日本の「In to the
 woods」などは普通だったが、やはりミュージカルを知っている人がやると安心して観れる。
オリジナルはどうだったがわからないが、ラストシーンを最初に見せたり、狂言回し的な役
の存在とその出現方法、シーンなどが、単調な歴史ものにミュージカルらしさを与えている。
ダンスは少ないが宮廷ものなのでしょうがないか。でもそれにしてはコンテンポラリー的な
新鮮さがありおもしろい。

宮本亜門とコンビが多い松井るみの装置も印象的。スタジアムの客席のような骨組で作った
駅はヘンだったけど。他は縮尺を大きく造っているためか部分だけでも逆に全体をイメージ
しやすい。宮殿なんかにはピッタリの手法。柱の一部、カーテンの一部だけでも大きいのが
ドーンとあると、狭い舞台でも大きな場所をイメージしやすく効果が大きい。それから一番
の特徴は宮殿の部屋でも、街の洋服屋でも、マリーの部屋でも壁が一面に名画(肖像画)に
なっている点。それも身体全体ではなく目のあたりとか腹のあたりとか一部分だけなのだ。
現実的にこんな壁紙の部屋があったら落ちつかないしありえないだろうけど、特に日本人は
これひとつで舞台のイメージを外国(ヨーロッパ)にスイッチしやすい。

曲は非クラシック的だけどどこか重厚なフランク・ワイルドホーンの特徴がありあり。でも
やはり「スカーレット・ピンパーネル」と「ジキル&ハイド」を足して2で割ったような曲
が多い。この2作を観てしまうと他のどの作品を観ても新鮮味がなく「いい曲率」が極端に
低く感じてしまうのが難。しかも1幕のラストにマリーが歌った「愛してるそれだけ(Only 
Love)」という曲はまさにその「スカーレット・ピンパーネル」の中の1曲。似たような曲
ばかりじゃなくて、そのまま過去作から流用までしちゃうってやっぱ新作期待できないなぁ。
でも来年はワイルドホーンの新作「シラノ」を鹿賀丈史主演でやるそうだ。心配〜。そして
宝塚は「スカーレット・ピンパーネル」を来年やるらしい。こっちは楽しみだー。

それにしてもミュージカル的においしい群集ソングは、「レ・ミゼラブル」「エリザベート」
「ジキル&ハイド」などと同じく、時代を生きる民衆の声なのだからもっとストーリー中に
民衆の話あってこそ生きてくる。冒頭に馬車に飛び込み自殺するなど追い詰められた民衆の
エピソードがあったが実はそれだけ。あと所々、街中や娼婦館(キャバレー?)のシーンも
あったが民衆が中心じゃなかったのであまりシーンとしては生きてなかったのは残念。
あくまでもルドルフ(とマリー、そしてその愛)を中心に意識しすぎだったかもしれない。
副題に「ラストキス」と付いているが物語の流れで言うと「ラストダンス」でもいいかも。
「最後は舞踏会に行こう。」なんて欧米文化なのねー。最終的には舞踏会でキスしてるわけ
だけど。

脚本的にも良く、演出もいい、キャストも。東宝ミュージカル見慣れているツウには満足の
いく出来だ。ただ音楽だけは個人的に新鮮味がないのが・・・。でも観客の満足度はいいの
だろう。1階は総スタンディング。帝劇では久しく見てなかったのでビックリ。しかも平日
だよ〜。今後も「エリザベート」と合わせて再演していけばいいと思う。


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