シラノ
日生劇場
  台本・作詞:レスリー・ブリカッス    音楽:フランク・ワイルドホーン
    原作:エドモン・ロスタン   翻訳:松岡和子   訳詞:竜真知子
演出:山田和也  演出補:小川美也子  音楽監督:塩田明弘  舞台監督:北條 孝
 装置:堀尾幸男  照明:成瀬一裕  衣裳:小峰リリー  ヘアメイク:武田千卷
         振付:前田清実    アクション:渥美 博
  編曲:八幡 茂  歌唱指導:林アキラ  音響:山本浩一  指揮:若林裕治
      プロデューサー:宮崎紀夫、梶浦智嗣、飯田聖子、清水麻利子
             主催・企画製作:東宝、ホリプロ、フジテレビ


 シラノ・ド・ベルジュラック   :鹿賀丈史   ロクサーヌ   :朝海ひかる
 クリスチャン・ド・ヌーヴィレット:浦井健治   ル・ブレ    :戸井勝海
 ラグノオ            :光枝明彦   伯爵ド・ギッシュ:鈴木綜馬

 佐山陽規、林アキラ、大須賀ひでき、中西勝之、金澤博、岡田静、阿部よしつぐ、
 家塚敦子、池谷京子、今泉由香、岩田元、岩本貴文、大江尚毅、岡本茜、神田恭兵、
 小関明久、小西のりゆき、守谷譲、煖エ桂、中山昇、福山出、山田展弘 

          公演期間:2009年5月5日(火)〜 5月28日(木)
      料金:S席12,600円 A席7,350円 B席 4,200円(全席指定・税込)

  観劇日:2009年5月19日(火) 18:30開演 2階I列10番(B席)

冒頭は良かった。アンサンブル達のほがらかなリズムの歌により場面が説明されていく。
その中で中心になっている光枝明彦がいい。「ノートルダムの鐘」のクロパンの吹き替え
や四季時代の役もこういう役が多かったがよく似合う。安心する。
シラノの登場シーンは姿は現さず、舞台の良し悪しをどこからともなく声で批判するって
「オペラ座の怪人」みたい。四季では鹿賀ファントムはなかったが。

その鹿賀シラノはやっぱ年齢的に変。シラノにしては貫禄ありすぎ。冒頭から鼻が大きな
コンプレックスもどこへやら、どんな相手もちょちょちょいとあしらい、やりたい放題。
ロクサーヌさえもうまくあしらっているように見えるが、そのロクサーヌに恋してるのに
何もできない、なんてキャラじゃないだろう。親子でもいいくらい。
若づくりしてるためなのかどうかわからないが、セリフや歌の1フレーズの頭を強く発声
して語尾を早く流すようにした話し方、歌い方がどうも聞き取りにくい。体のアクション
も大きく、セリフ、歌のたびに特に頭部をよく動かすが、長髪の揺れのせいでそれがよく
目立ちすぎ。つばのある大きな帽子をかぶるとさらに目立つ。
ラスト近くの15年後のシーンはそういうこともなく、しっとり落ち着いた語り口で語尾
も流れずこちらの方が似合っており、引き込まれるようないい演技だった。
歌も高い音域(何かの記事で、この作品には今まで出したことない音域があるとか書いて
あった。)がつらそうだった。
朝海ロクサーヌは初めて見たけど歌声がきれい。それにしっとり落ち着いた歌い方が合う。
まだ観てないが、新しくキャスティングされている東宝のエリザベート役は似合うだろう。
浦井クリスチャンは美青年すぎ。なんで兵士とかになるの?とイマイチ納得できない。
鈴木ド・ギッシュは相変わらずいい歌声だし、コメディもバッチリだけど、鹿賀シラノと
渡り合うライバルとしては分が悪い。やはり年齢差か。

作品としては、究極の愛のテーマがあり重厚な作品なのだと思うが、ロクサーヌ(女性)
が直球な会話よりも手紙(詩)にトキメク感じ、シラノ(男性)の見返りのない献身的な
愛など、そのまま流しても現代にはなかなか受け入れられにくいと思う。シラノがもっと
若く内気なオタク青年みたいな感じなら、自分の得意分野を陰で役立てるだけの喜び感も
イマ風に伝わるかもしれない。

数年前の市村正親主演、クーン・ヴァン・ダイク演出の「シラノ・ザ・ミュージカル」に
比べると、さすがに原作は同じだけあって冒頭以外はほとんど同じシーンで構成(順番は
違うが)されている。ただ、シラノのキャラとして鹿賀シラノはコメディ調の軽いシラノ
だが、市村シラノには生真面目さと悲哀があった。クリスチャンとロクサーヌについても
今回は「美男美女同士のひと目ぼれ一直線」感が強く、恋愛してる葛藤があまり感じられ
なかったが、ダイク版の2人はもっとそのあたりが深く描かれていた。何よりも歌により
そういう人間模様がキチンと表現されているかどうかにミュージカル・シラノの良し悪し
がある。

そういう意味でも印象に残るダイク版に比べ、こちらの曲はありきたり。1、2曲はいい
メロディーがあったが、あたりさわりのないいいメロディーを使ったって感じ。さらに曲
もどれも短いのが残念。ラストの修道院シーンに至ってはほとんど歌はなく、ストレート
プレイのようで、ミュージカルとしては変。90年代末はブロードウェイで3作品も同時
上演してたほどの人気作曲家、フランク・ワイルドホーン。その新作が世界で初めて上演
されるワールド・プレミアがこの公演。これってとても凄いことだが、逆に言うと日本で
しか新作公演させてもらえなくなっちゃったってことかなぁ。個人的には好きなので新作
の度に期待するのだが、やはり最初の2作品(Jekyll&Hyde,The Scarlet Pimpernel)に
似てる曲がが多くてなかなか期待通りの新作には出会えない。

ダンスシーンもなかったね。ロクサーヌが戦場に来た時にはダイク版には大騒ぎなダンス
ナンバーがあったような気がするけど。

セットは戦場シーンの構図が「レ・ミゼラブル」をそのまま連想させるような配置でもう
ひとひねり欲しい。バリケードはないんだけど客席からの見え方が一緒なのだ。「撃たれ
たクリスチャンに寄り添うロクサーヌ、それを見守る兵士とシラノ」とかなんてそのまま
「撃たれたエポニーヌに寄り添うマリウス、それを見守る学生とバルジャン」って感じ。
それ以外のセットは湖(川?)に映る月光のような照明(映像?)など総じて良かった。
背景にベルジュラックの風景映像(森)が映し出されるシーンはつい最近に「この森で、
天使はバスを降りた」を観て「森を連想させるセットがない」のに不満だったが、これを
観て「これ、これ!」と納得したのだった。戦場シーンから修道院シーンへ転換する際の
「黒→赤」の照明や上から落ちてくる落葉も効果的だった。(ただ大量すぎて「片付けで
きないだろう→この場がラストシーンなんだろう」と連想できてしまうのは少しマイナス
要素。)

日生劇場のミュージカルと言えばB席3000円(3150円)がウリだった?が今回は
4200円。同じ東宝、ホリプロ、フジテレビ共催のジキル&ハイドなども安かったのに
納得いかないなー。最近ここでやったドロウジー・シャペロン(ホリプロ、日本テレビ)
は税込3000円、マルグリット(ホリプロ・TBS)は9000円(B席なし→論外)。
9月のジェーン・エア(松竹・フジテレビ)は3150円(プレビューは2500円)、
10月の屋根の上のヴァイオリン弾き(東宝)4000円、12月のシェルブールの雨傘
(東宝)5500円(B席なし)と主催により違いがあるが、東宝が高め路線になったの
かな。シアター・クリエも高いしね。

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